〜さざなみのおおやしま〜

何でも「少なく、小さく、軽く」が身上のミニマリスト。GAFAMの犬。楽天経済圏の住人。<サラリーマンのテーゼ>について考える。

『銀河英雄伝説』(田中芳樹著)の名言集〜Die Neue Theseが好調〜


銀河英雄伝説 Die Neue These』が人気のようです。 
みんな男前になっていたのには驚きですね。
アレックス・キャゼルヌは中年のグチっぽいキャラというのが良かったのに、IT企業のやりてプログラマーみたいな見た目に変わっているし、、、。
出てきたときには「誰だ!お前!」って思いましたよ。ワルター・フォン・シェーンコップは男臭いのがよかった(旧アニメ版では銀英伝唯一の濡れ場を演じるという)のに、なんかイケメン優男になっちゃってるし「おもてたんとちゃうっ!こんなんワルターちゃうやん!」て思いました。
 私は20年以上前にこの作品を知って以来、夢中になって読んでいました。
宝塚歌劇のような台詞めいた名言の数々が、この対策の魅力のひとつ。
今回、自分のメモを引っ張り出してみました。
以下にコピペします。

 

終わりのない夜。無限の虚無。想像を絶する寒冷。それらは人間を拒絶はしない。ただ無視するのみである。宇宙は広大だが、人間にとっては広くない。それは、人間が認識し行動しうる能力の範囲においてしか意味をもたないからである。

 

それらのものに、本来、名はない。微小な人間たちが、認識しうる範囲のものを区別するために、自分たちの記号で呼ぶのである。

 

三〇〇〇万出征兵士のうち七割を失うという衝撃的な惨敗に直面して、人々は、ユリシーズを話の種にして笑いでもしなければ、理性の平衡をたもてなかったのかもしれない。たとえそうであっても、乗員たちはすこしもなぐさめられはしなかったが……。

 

まあ、詮索はあとのことだ。まだ臨戦態勢はとくな。機関を停止し、通信スクリーンを開くよう伝えろ。

ニルソン艦長は五稜星のマークを白く染めぬいた黒いベレーをぬぐと、それで顔をあおいだ。殺しあいが避けられるなら、それにこしたことはない。勝ったとしても犠牲が皆無というわけにはいかないのだから。スクリーンのひとつに浮かびあがった、ユリシーズと似たりよったりの敵艦を眺めながら、艦長は思う。あのなかの連中も、汗をかいて緊張しているのだろうか。

 

ヤン・ウェンリーを同盟軍屈指の重要人物と考えることは、たいていの人間には困難である。そもそも、軍服を着ているときでさえ、軍人らしく見えないのだ。

 

年齢は三〇歳だが、外見はさらに二、三歳若い。黒い髪と黒い目、体格は中肉中背で、ハンサムと言えないことはないが、稀少価値を主張するほどのこともない。非凡なのは、彼の頭蓋骨の外側ではなく、中身のほうだった。

 

もともと、軍人になどなるつもりはなく、歴史学者志望だった彼は、どれほど強大な国家でもかならず滅亡し、いかに偉大な英雄でも権力をにぎって以後は堕落することを学んでいた。

 

生命にかんしても同様だ。多くの戦場で生きぬいた勇者が風邪をこじらせて死ぬ。血で血を洗う権力闘争に勝ち残った人物が、名もない暗殺者の手にかかる。かつて銀河帝国皇帝オトフリート三世は、毒殺をおそれるあまり食事をとらず、衰弱死しているのだ。

 

社会における唯一の正統政権と主張し、相手の存在を公認していないのである。したがって外交関係も成立しようがない。これが個人レベルの問題であれば、人々はそのかたくなさ、おろかさを笑うであろう。それが国家レベルになると、権威とか尊厳の名のもとに、人々はあらゆる悪徳を容認してしまうのだ。

 

無知と狂信と自己陶酔と非寛容によって生みだされた、歴史上の汚点。神と正義を信じてうたがわない者こそが、もっとも残忍に、狂暴になりえるという事実の、それはにがい証明だったはずである。

 

善行をする者はひとりでやりたがり、愚行をおこなう者は仲間をほしがる――そういう警句がある。道づれにされる者はたまらない。

 

貧しいが若さと希望だけはたっぷりある恋人たちが、この店で食べものや飲みものを買いこんで、常夜灯の下のベンチで話しこんだりしている、そんな場所なのだ。

 

なにもかも変わる。時がただ時としての歩みをつづけるうちに、子供は成人になり、成人は老い、とりかえしえないものだけがふえてゆくのだ。

 

つまり、首都の兵力を分散させねばならない。そのために辺境で叛乱をおこす。鎮圧のため軍は出動せざるをえん。でかけた留守を本命がおさえる。ふむ、うまくいけば絵に描いたようにみごとにはなるな。

 

彼は顔をあげた。目の濁りは消えようもなかったが、その奥で、いまでは熔鉱炉に似た炎がうごめいていた。

 

平和か。平和というのはな、キルヒアイス。無能が最大の悪徳とされないような幸福な時代を指して言うのだ。

 

彼女のような存在は社会に必要なのさ。まあ、あんなに弁舌のたっしゃな女性を嫁さんにしようとは思わんがね。

 

「閣下は軍部のなかでも、理性と良識に富んだ人物だと思っておったのですがな」「恐縮ですな」「だが、どうやらかいかぶっておったらしい。このような軽率な行為に参加なさるとは、理性も良識も居眠りしているとしか思えん」

 

人類が地上を這いまわっていたころから、今日にいたるまで、暴力でルールを破るような者を紳士とは呼ばんのだよ。そう呼んでほしければ、せっかく手にいれた権力だ、失わないうちにあたらしい辞書でも作らせることだな。

 

運命というものが年老いた魔女のように意地が悪いということを、ヤンは充分に承知していたつもりだった。

 

運命とは偶然と無数の個人の意思の集積であり、超越的な存在などではないのだから。

 

た。決断をしたくないときにしなくてもよいものなら、人生はバラ色の光につつまれるだろう。そうはいかないのが人生の味なのだ、と古人は言ったが、それにしても今回は香辛料が効きすぎるようだった。

 

すでに問題は、戦略や戦術をはなれて、政略の次元へとうつっている。森を見ただけで、黒紹の毛皮の値を計算しているのだ。

 

「ところで妙な噂を聞いたんだが」「噂ってやつは、たいてい妙なものさ」

 

全能の神とやらは、自分の言うことをきかない女を造ることができるのかい?造れないなら全能じゃないし、言うことをきかせることができないなら、やはり全能ではないじゃないか……。

 

逃げても恥にならない相手というものは、たしかに存在するのである。それをわきまえないのは、無謀か、さもなくば低能というものだ。

 

ハイネセンをはじめとする星々では、『ヤン・ウェンリーに見るリーダーシップの研究』だの、『戦略的発想と戦術的発想――ヤン・ウェンリー四つの戦い』だの、『現代人材論Ⅲヤン・ウェンリー』だのといった軽薄な題名と無責任な内容の本やビデオがいくつも出版されているありさまだ。輝ける現代の英雄。「ヤン・ウェンリーとかいう奴は、ずいぶんと偉い奴らしいな。あんたと同姓同名で、たいへんな差だ。

 

目上の者を、あまり面とむかって賞めるものではない。相手が軟弱な人物なら、うぬぼれさせてけっきょくだめにしてしまうし、硬すぎる人物なら、目上にこびる奴だとうとまれるかもしれない。注意することだ……。

 

もうすぐ戦いがはじまる。ろくでもない戦いだが、それだけに勝たなくては意味がない。勝つための計算はしてあるから、無理をせず、気楽にやってくれ。かかっているものは、たかだか国家の存亡だ。個人の自由と権利にくらべれば、たいした価値のあるものじゃない……それでは、みんな、そろそろはじめるとしようか。

 

人生の主食は酒と女、戦争はまあ三時のおやつだな。

 

「経済とは生物だ。統制したところで、予定どおりにはけっしてうごかない。軍隊では、上官が部下をなぐってでも命令をきかせますが、そういう感覚で経済を論じられてはこまりますな。いっそ吾々フェザーンにおまかせくだされば……」「よけいなことを言うな」大佐はどなった。「吾々は銀河帝国専制主義者どもを打倒して、人類社会に自由と正義を回復する。そのあかつきには、きさまらフェザーンの拝金主義者どもにも、正義のなんたるかを教えてやるぞ。金銭で人の心や社会を支配できるなどと思いあがるなよ」「名台詞ですな」

 

商人の目に、おだやかな嘲弄の波が揺れていた。「しかし、すこし変えたほうがよろしいでしょう。金銭というところを暴力とね。思いあたることが多々おありかと思いますが」

 

「主義主張なんてものは……」臆面もなく言いはなつ。「生きるための方便です。それが生きるのに邪魔なら捨てさるだけのことで」

 

見たか、ばか息子ども。戦いとはこういうふうにやるものだ。きさまらの猿にも劣る頭で、憶えておけるかぎりは憶えておけ。

 

メルカッツの考えるブラウンシュヴァイク公の病理は、無意識の、傷つきやすい自尊心だった。本人はそれと気づかないだろうが、自身をもっとも偉大で無謬の存在であると信じているため、他人に感謝することができず、自分とことなる考えの所有者を認めることもできないのだ。彼とことなる考えをもつ者は反逆者にしか見えず、忠告は誹謗としか聴こえない。したがって、シュトライトにせよ、フェルナーにせよ、彼のために策をたてたにもかかわらず、容れられることなく、かえって彼の陣営を去らねばならなかったのだ。

 

「よくわかりませんが、宗教一般についていえば、貧乏人が神の公正さを信じるなんて、ひどい矛盾だと思います。神が不公正だから、貧乏人がいるんでしょうに」「一理あるな。きみは神を信じないのかね?」「まったく信じていません」「ほう」「神なんてしろものを考えだした人間は、歴史上最大のペテン師ですよ。その構想力と商才だけは見あげたものです。古代から近代にいたるまで、どこの国でも金持ちといえば貴族と地主と寺院だったじゃありませんか」

 

「コーネフ家はな――」若い船長はどなり声になった。「この二〇〇年間、犯罪者と役人を身内からだしていないのが自慢だったんだ。自由の民だ。自由の民だぞ!それがなんだ、よりによってスパイだと!いっぺんに両方か!」

 

鎖につながれる不愉快さは、金銭もうけのできないことの比ではなかった。ボリス・コーネフという人間になんらかの存在価値があるとすれば、独立不羈の自由人であるということだ。フェザーン自治領ルビンスキーは、その誇りを、かるがると踏みにじってくれた。しかも性質の悪いことに、当人はむしろ恩恵をほどこしたつもりでいるのだ!

 

権力をもった人間は、市民が権力機構の一端にかかわるのを、よほどの特権と思うものらしい。ルビンスキーほどの男でも、その錯覚からのがれられないとみえる。

 

人間は誰でも身の安全をはかるものだ。この私だって、もっと責任のかるい立場にいれば、形勢の有利なほうに味方しよう、と思ったかもしれない。まして他人なら、なおさらのことさ。

 

人間の歴史に、〝絶対善と絶対悪の戦い〟などなかった。あるのは、主観的な善と主観的な善とのあらそいであり、正義の信念と正義の信念との相克である。一方的な侵略戦争の場合ですら、侵略する側は自分こそ正義だと信じているものだ。戦争が絶えないのはそれゆえである。人間が神と正義を信じているかぎり、あらそいはなくなるはずがない。

 

「信念で勝てるのなら、これほど楽なことはない。誰だって勝ちたいんだから」ヤンはそう思っている。彼に言わせれば、信念とは願望の強力なものにすぎず、なんら客観的な根拠をもつものではない。それが強まれば強まるほど、視野はせまくなり、正確な判断や洞察が不可能になる。だいたい信念などというのは恥ずかしい言葉で、辞書にのってさえいればよく、口にだして言うものではない。

 

政治の腐敗とは、政治家が賄賂をとることじゃない。それは個人の腐敗であるにすぎない。政治家が賄賂をとってもそれを批判することができない状態を、政治の腐敗というんだ。貴官たちは言論の統制を布告した、それだけでも、貴官たちが帝国の専制政治や同盟の現在の政治を非難する資格はなかったと思わないか。

 

「最後まで自分の誤りを認めませんでしたな」「人それぞれの正義さ」

 

けっきょく、貴族たちは、盟主を責めるのをやめ、自分たちの選択を呪い、残りすくない選択肢のなかから、最小の不幸をさぐりだすしかなかった。

 

組織にナンバー2は必要ありません。無能なら無能なりに、有能なら有能なりに、組織をそこねます。ナンバーにたいする部下の忠誠心は、代替のきくものであってはなりません。

 

頭の切れる男だ。それは認める。だが、どうも平地に乱をおこす癖があるな。いままでうまくはこんでいたものを、理屈にあわないからといって、むりにあらためることはない。ことに人間どうしの関係をな。

 

「もう私はラインハルトさまのお役にたてそうにありません……お許しください」「ばか!なにを言う」ラインハルトは叫んだつもりだったが、ようやくでた声は小さく弱々しかった。この美しすぎるほど美しい若者、生まれつき他者を圧倒するほどに強烈な華麗さをそなえた若者が、このとき、壁にすがらなければ歩くこともできない無力な幼児のように見えた。「もうすぐ医者がくる。こんな傷、すぐになおる。なおったら、姉上のところへ勝利の報告に行こう。な、そうしよう」「ラインハルトさま……」「医者が来るまでしゃべるな」「宇宙を手にお入れください」「……ああ」「それと、アンネローゼさまにお伝えください。ジークは昔の誓いをまもったと……」「いやだ」金髪の若者は、色を失った唇を慄わせた。「おれはそんなこと伝えない。お前の口から伝えるんだ。お前自身で。おれは伝えたりしないぞ。いいか、いっしょに姉上のところへ行くんだ」キルヒアイスは、かすかにほほえんだようだった。その微笑が消えたとき、金髪の若者は、半瞬の戦慄とともに、自分の半身が永久に失われたことを知った。「キルヒアイス……返事をしろ、キルヒアイス、なぜ黙っている!?」見かねたミッターマイヤーが、若い帝国元帥の肩に手をおいてなだめた。「だめです。亡くなりました。このうえは安らかに眠らせて……」彼は言葉をのみこんだ。これまで見たことのない光が、若い上官の瞳にあったからである。「噓をつくな、ミッターマイヤー。卿は噓をついている。キルヒアイスが、私をおいてさきに死ぬわけはないんだ」

 

ローエングラム侯にはたちなおっていただく。たちなおっていただかねばならぬ。さもないと、吾々全員、銀河の深淵にむかって滅亡の歌を合唱することになるぞ。

 

「卿を敵にまわしたくはないものだ。勝てるはずがないからな」ミッターマイヤーの発言にこめられた深い嫌悪感を、すくなくとも表面的にはオーベルシュタインは無視した。

 

それでヤンは宮仕えの地獄から救われるのだ。人々の目をさけて社会の片隅でひっそり暮らすのも悪くない。田園の小さな家で、寒い夜は風の音を聴きながらブランデー・グラスをかたむけ、雨の日は大気中を遊泳する壮大な水の旅に思いをはせつつワインをたしなむという生活だ。

 

ふたりの手がにぎりあわされたとき、群衆の歓声はひときわ高まり、拍手の音は秋空を圧した。ヤンは一秒でも早く手を離したかったが、ようやく無血の拷問から解放されるとき、とほうもないことを考えたのである。

 

故人となったジークフリード・キルヒアイスには、帝国元帥の称号があたえられ、生前にさかのぼって、軍務尚書、統帥本部総長、宇宙艦隊司令長官、さらに帝国軍最高司令官代理、帝国宰相顧問の称号が贈られた。どれほど世俗的名誉をあたえても、ラインハルトは赤毛の友にむくいきれない気がした。だが、彼がキルヒアイスのためにえらんだ墓碑銘は、簡潔をきわめた。ただ一言、「わが友」それだけであった。

 

西暦二八〇一年、太陽系第三惑星地球からアルデバラン系第二惑星テオリアに政治的統一の中枢を遷し、銀河連邦の成立を宣言した人類は、同年を宇宙暦一年と改元し、銀河系の深奥部と辺境部にむかってあくなき膨張を開始した。西暦二七〇〇年代のいちじるしい特徴である戦乱と無秩序とが、外的世界への人類の発展を停滞させたあとであるだけに、そのほとばしるエネルギーはいっそう、爆発的であった。

 

人類という種全体のバイオリズムはあきらかな昂揚期にあった。人々は不退転の意志とめくるめく情熱をもってすべてにとりくんだ。困難に直面しても、彼らは不健全な悲壮感に陶酔することなく、陽気にそれらを克服していった。当時の人類はあるいは救いがたい楽天主義者の集団であったのかもしれない。

 

とはいっても、いくつかの傷がなかったわけではない。まず宇宙海賊の存在があった。これは西暦二七〇〇年代に人類社会の覇権をあらそった地球・シリウス両国の私掠船戦術が産みおとした奇形児であった。

 

宇宙暦一〇六年、銀河連邦は本腰をいれて宇宙海賊の一掃にのりだし、M・シュフラン、C・ウッドらの諸提督の活躍によって、二年後ほぼその目的を達成した。もっともそれは容易ではなかった。毒舌家として知られたウッド提督の回顧録の一節はつぎのごとくである。「……私は前面の有能な敵、後背の無能な味方、この両者と同時に闘わなくてはならなかった。しかも私自身ですら全面的にはあてにならなかった」

 

これらの社会上の疾患は間断なく発生していたが、人類全体を一個の人体にたとえるなら、それはかるい皮膚病のようなものであり、皮膚に埃が付着するのを完全には防ぎえないように、それらを根絶するのは不可能なのであった。そして適切な治療さえくわえておけば、それが死因となるような事態にはまずたちいたらない。人類は手術台にのぼることなく、二世紀以上の歳月をほぼ健康にすごすことができた。

 

人々の心のなかで、疲労と倦怠が希望と野心を制するようになった。消極が積極に、悲観が楽観に、退嬰が進取に、それぞれとってかわった。科学技術方面におけるあらたな発見や発明があとを絶った。民主的共和政治は自浄能力を失い、利権や政争にのみ食指をうごかす衆愚政治と堕した。

 

社会生活や文化は頽廃の一途をたどった。人々はよるべき価値観を見失い、麻薬と酒と性的乱交と神秘主義にふけった。犯罪が激増し、それに反比例して検挙率は低下した。生命を軽視し、モラルを嘲笑する傾向は深まるいっぽうだった。これらの事象を憂慮する人々は、むろん、数多かった。頽廃のすえ、人類が恐竜のように惨めに滅亡していくのを、彼らは坐視できなかった。

 

しかし彼らの大部分は、その病を治癒する手段として、忍耐と根気を必要とする長期の療法ではなく、副作用をともなう即効薬を嚥むことをえらんだのである。それは〝独裁〟という名の劇薬であった。

 

それは権力と暴力との祝福されざる結婚だった。そしてそのあいだに恐怖政治という名の乳児が産まれ、ごく短期間に巨大に成長して人類社会をのみこんだ。

 

共和主義者の墓標がふえ、挽歌にかわって社会秩序維持局の嘲笑がひびきわたる

 

そこは巨星、矮星変光星などの危険がみちた巨大な空間だった。造物主の悪意が脱出者たちの頭上につぎつぎとふりかかった。

 

新天地の恒星群には古代フェニキアの神々の名があたえられた。バーラト、アスターテ、メルカル卜、ハダドなどである。根拠地がおかれたのはバーラトの第四惑星で、いまは亡き指導者ハイネセンの名があたえられ、その功績が永くたたえられることになった。

 

専制政治の軛を脱した人々は、帝国暦を廃して宇宙暦を復活させることを決定した。自分たちこそが銀河連邦の正当な後継者であるとの誇りがそこにあった。ルドルフごときは民主制の卑劣な裏切者であるにすぎない。

 

同盟軍総指揮官のリン・パオは好色で酒豪、かつ大食漢で、古代の清教徒的な質朴さをおもんじる同盟の為政者たちからはとかく白眼視されていたが、用兵にかけては天才的だった。それを補佐した参謀長のユースフ・トパロウルは〝ぼやきのユースフ〟と呼ばれる男で、「なんでこんな苦労をしなければいけないのか」とことあるごとに不平を鳴らすので有名だったが、呼吸する戦術コンピューターともいうべき緻密な理論家だった。ふたりともまだ三〇代だったが、このコンビが、ダゴン星域外縁部における史上屈指の包囲殲滅戦を演出し、建国以後最大の英雄となったのである。

 

金髪の少年に差をつけてキルヒアイスの背が伸びはじめたとき、ラインハルトは本気で口惜しがり、友人をおきざりにして自分だけ背を伸ばすのか、などと抗議口調で言ったものである。

 

「金銭はけっして軽蔑すべきものじゃないぞ。これがあればいやな奴をさげずにすむし、生活のために節を曲げることもない。政治家とおなじでな、こちらがきちんとコントロールして独走させなければいいのだ」

 

「要するに三、四〇〇〇年前から戦いの本質というものは変化していない。戦場に着くまでは補給が、着いてからは指揮官の質が、勝敗を左右する」戦史の知識に照らしあわせて、彼はそう考えた。〝勇将のもとに弱兵なし〟とか、〝一頭のライオンにひきいられた一〇〇頭の羊の群は、一頭の羊にひきいられた一〇〇頭のライオンの群に勝つ〟とか、古来、指揮官の重要性を強調した格言は多いのだ。

 

戦う以上、犠牲が皆無ということはありえない。だが同時に、犠牲の増加に反比例して戦勝の効果は減少する。この双方の命題を両立させる点に用兵学の存在意義があるはずだ。つまり最小の犠牲で最大の効果を、ということであり、冷酷な表現をもちいれば、いかに効率よく味方を殺すか、ということになるであろう。

 

後悔して、戦死した将兵が復活するものなら、キロリットル単位の涙を流すのもよかろう。だが……けっきょく、それは悲愴ごっこにすぎないではないか。

 

智将と呼び、猛将と言う。それらの区分をこえて、部下に不敗の信仰をいだかせる指揮官を名将と称する――

 

「貴官の勇戦に敬意を表す、再戦の日まで壮健なれ……そんなところでいいだろう」

 

「専門家が素人におくれをとる場合が、往々にしてある。長所より短所を、好機より危機をみてしまうからだ。」

 

恒星フェザーンは四個の惑星をしたがえている。その三個までは高熱のガスの塊であり、第二惑星のみが硬い地殻を所有していた。気体の組成分は人類の故郷である太陽系第三惑星とほとんどことならない。八割ちかくの窒素と二割ちかくの酸素――最大の差異は本来、二酸化炭素を欠くことで、したがって植物が存在しなかった。水もすくない。藍藻類から順次、高等な植物種子の散布へとすすんだ惑星緑化も、地表の全域を緑の沃野と化せしめるにはいたらず、水利のよい地域のみが緑色の帯状に惑星表面をいろどっている。赤い部分は岩砂漠の荒野で、侵蝕と風化のすすんだ地形が奇景奇観を誇っていた。

 

古いことイコール悪いこと、と考える人々のなかにはそう主張する者もいたが、ではなにをもってあたらしい基準とするかというと、誰もが納得できる解答などありはしないのだった。けっきょく、古くからの習慣が最大の支持――かならずしも積極的ではないにしろ――をえて、今日にいたっているのだった。

 

笑いながらラインハルトが応じ、手頃な広さの居間にはなごやかな雰囲気がみちた。時の精霊がこの空間だけを一〇年前にもどしたような錯覚を、若者たちはひとしくいだいた。

 

長身と端整な眉目を有する四一歳の少壮政治家。行動力に富んだ対帝国強硬論者。彼を知る者の半数は雄弁家とたたえ、残る半数は詭弁家として忌み嫌う。

 

ここまでの演説で、ヤンはすでに耳をふさぎたくなった。聴いているほうが恥ずかしくなり、そらぞらしく美辞麗句をならべたてる演説者の側が平然としているといったこっけいな情況は、古代ギリシア以来の人類の伝統なのだろうか。

「この国は自由の国です。起立したくないときに起立しないでよい自由があるはずだ。私はその自由を行使しているだけです」「ではなぜ、起立したくないのだ」「答えない自由を行使します」

 

キャゼルヌ少将が笑うだろう、抵抗するにしても方法が拙劣だ、と。しかしヤンはここで円熟したおとなとして行動する気になれなかった。

 

いつでも、王様は裸だと叫ぶのはおとなではなく子供なのだ。

 

国防委員長は意味もなく広い会場を見わたした。六万の聴衆は六万の沈黙で彼に応えた。

 

非戦闘員を虐殺したとか休戦協定を破ったとかの蛮行があった場合はともかく、本来、名将と愚将とのあいだに道義上の優劣はない。愚将が味方を一〇〇万人殺すとき、名将は敵を一〇〇万人殺す。その差があるだけで、殺されても殺さないという絶対的平和主義の見地からすれば、どちらも大量殺人者であることに差はないのだ。

 

若い当主は短期間の出張にでかけたが、一週間後に帰宅して、整頓と能率の連合軍に占領されたわが家を見いだしたのだった。

 

「有史以来初めて、お前さんの家が清潔になったじゃないか。親が無能ならそのぶん、子供がしっかりするというのは真実らしいな」

 

「お前さんは自宅ではテーブルの上にすわる習慣があったのかね」「曜日によってはね」

 

「やれやれ、きみは昔とすこしも変わらんな。温和な表情で辛辣な台詞を吐く。士官学校時代からそうだった」

 

「ボタン戦争と称された一時代、レーダーと電子工学が奇形的に発達していた一時代をのぞいて、戦場における用兵にはつねに一定の法則がありました。兵力を集中すること、その兵力を高速で移動させること、この両者です。これを要約すればただ一言、〝むだな兵力をつくるな〟です。ローエングラム伯はそれを完璧に実行してのけたのです」

 

「きみにできなければ、ほかの誰にも不可能だろうと考えておるよ」きみにならできる……古い伝統をもつ殺し文句だな、とヤンは考えた。この甘いささやきにプライドをくすぐられて不可能事に挑み、身を誤った人々のなんと多いことか。そして甘言を弄した側が責任をとることはけっしてないのだ。

 

アレックス・キャゼルヌという男は軍服のスラックスのしたに、先端のとがった黒いしっぽをひそめているにちがいないと考えた。彼女は統合作戦本部次長ドワイト・グリーンヒル大将の娘であり、驚くべき記憶力の所有者として知られていたのだ。

 

「もし失敗したらどうします?」間をおいてのムライの質問は当然のことだった。「しっぽをまいて退散するしかないね」「しかしそれでは……」「なに、心配ない。もともと半個艦隊でイゼルローンを陥せというのが無理難題なんだ。恥をかくのはシトレ本部長と私さ」

 

「私が噂どおり七人目の裏切者になったとしたら、ことはすべて水泡に帰します。そうなったらどうします?」「こまる」ヤンの真剣な表情を見て、シェーンコップは苦笑した。「そりゃおこまりでしょうな、たしかに。しかしこまってばかりいるわけですか?なにか対処法を考えておいででしょうに」

 

吾々がつぎの世代になにか遺産を託さなくてはならないとするなら、やはり平和がいちばんだ。そして前の世代から手わたされた平和を維持するのは、つぎの世代の責任だ。それぞれの世代が、のちの世代への責任を忘れないでいれば、結果として長期間の平和がたもてるだろう。忘れれば先人の遺産は食いつぶされ、人類は一から再出発ということになる。まあ、それもいいけどね」

 

「要するに私の希望は、たかだかこのさき何十年かの平和なんだ。だがそれでも、その十分の一の期間の戦乱に勝ること幾万倍だと思う。私の家に一四歳の男の子がいるが、その子が戦場にひきだされるのを見たくない。そういうことだ」

 

手まわしよく準備された式典とそれにつづく祝宴で、ヤンは自分の虚像が華麗に踊りまわるのをいやというほど見せつけられた。

 

「戦いつづけていれば、いつかは負ける。そのときどう掌が返るか、他人事ならおもしろいがね。ところで、ユリアン、ブランデーぐらい好きに飲ませてくれないかな」

 

そのカストロプ公が死んだ。帝国の財務、司法の両省にとっては歓迎すべきチャンスといえた。あえて死者を鞭打つべきだ。大貴族といえどもけっして法の支配をまぬがれることはできないのだ、と民衆に知らしめ、貴族たちのなかに無数に存在する小カストロプどもを牽制し、もって帝国の法と行政の威をしめさなくてはならない。

人間が老いを約束されているように、国家は堕落と頽廃を約束されているのかもしれない。

 

ウランフは古代地球世界のなかばを征服したと言われる騎馬民族の末裔で、筋骨たくましい壮年の男である。色は浅黒く、両眼はするどく輝いている。同盟軍の諸提督のなかでも、勇将として市民の人気が高い。

 

想像を絶する新兵器、などというものはまず実在しない。たがいに敵対する両陣営のいっぽうで発明され実用化された兵器は、いまいっぽうの陣営においてもすくなくとも理論的に実現している場合がほとんどである。戦車、潜水艦、核分裂兵器、ビーム兵器などいずれもそうであり、後れをとった陣営の敗北感は〝まさか〟よりも〝やはり〟というかたちで表現されるのだ。人間の想像力は個体間では大きな格差があるが、集団としてトータルでみたとき、その差はいちじるしく縮小する。ことに新兵器の出現は技術力と経済力の集積のうえに成立するもので、石器時代に飛行機が登場することはない。

 

歴史的にみても、新兵器によって勝敗が決したのは、スペイン人によるインカ侵略戦ていどのもので、それもインカ古来の伝説に便乗した詐術的な色彩が濃い。古代ギリシア都市国家シラクサの住人アルキメデスは、さまざまな科学兵器を考案したものの、ローマ帝国の侵攻を防ぐことはできなかった。

 

想像を絶する、という表現はむしろ用兵思想の転換に際してつかわれることが多い。そのなかで新兵器の発明または移入によってそれが触発される場合もたしかにある。火器の大量使用、航空戦力による海上支配、戦車と航空機のコンビネーションによる高速機動戦術など、いずれもそうだが、ハンニバルの包囲殲滅戦法、ナポレオンの各個撃破、毛沢東のゲリラ戦略、ジンギスカンの騎兵集団戦法、孫子の心理情報戦略、エパミノンダスの重装歩兵斜線陣などは、新兵器とは無縁に案出・創造されたものだ。

 

自分の才能をしめすのに実績ではなく弁舌をもってし、しかも他者をおとしめて自分を偉くみせようとする。自分で思っているほどじつは才能などないのだが……。

 

スパルタニアン搭乗要員数千人の心身にこころよい緊張感をはしらせた。自己の技倆と反射神経に強烈な自信を有する軍神の申し子たちであり、死への恐怖感など、彼らには侮辱の対象でしかない。

 

「中尉……私はすこし歴史を学んだ。それで知ったのだが、人間の社会には思想の潮流が二つあるんだ。生命以上の価値が存在する、という説と、生命に優るものはない、という説とだ。人は戦いをはじめるとき前者を口実にし、戦いをやめるとき後者を理由にする。それを何百年、何千年もつづけてきた……」

 

「人命や金銭を多く費消したと言うが、それ以上に尊重すべきものがあるのだ。感情的な厭戦主義におちいるべきではない」

 

「金銭はともかく、人命以上に尊重すべきものとはなにを指して言うのか。権力者の保身や軍人の野心か。二〇〇〇万もの将兵の血を無益に流し、それに数倍する遺族の涙を流させながら、それが尊重に値せぬものとでも!?」

た――それはラインハルトほど激しくはないが、あるいはより深かったかもしれない。

 

人類によって収奪と破壊の徹底した対象となったすえに、見捨てられた辺境の惑星。老衰と荒廃、疲弊と貧困。砂漠と岩山と疎林のなかに点在する遺跡。汚染され永遠に肥沃さを失った土にしがみついて、細々と生きつづける少数の人々。栄光の残滓と、沈澱した怨念。ルドルフさえ無視した無力な惑星。未来を所有せず、過去のみを所有する太陽系の第三惑星……。

 

以上。

なんかみんな「テニスの王子様」とか「ハイキュー」の登場人物みたいなシュッとした男前になっちゃった。

銀河英雄伝説 Die Neue These 星乱 第二章

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 キルヒアイスもまぁ、よし。 

銀河英雄伝説 Die Neue These 星乱 第三章

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 オーベルシュタインはイメージどおりです。

 これ、キャゼルヌ先輩! 誰だお前!!

 これがワルター・フォン・シェーンコップ!いいか、若造よく覚えておけ、ワルターってのはアゴの先が二つに割れていてこそのシェーンであり、コップなんだよ。トマホークぶん回せるのかよ、こんな優男で! 

イゼルローン攻略(後編)

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