〜さざなみのおおやしま〜

何でも「少なく、小さく、軽く」が身上のミニマリスト。GAFAMの犬。楽天経済圏の住人。<サラリーマンのテーゼ>について考える。

『油断』(堺屋太一著)〜オイルショックを予見した小説〜


 

『油断!』(ゆだん)は、堺屋太一1975年に発表した小説

中東からの石油輸入が制限されるようになった時に、日本はどのような状況下に置かれるのかを書いたシミュレーション小説である。1973年に小説の第一稿は書き上げられていたが、現実世界で本物のオイルショックが発生したため、不安を助長させないために出版を見送った。石油危機が落ち着いた1975年に、第一稿に若干の修正をして日本経済新聞社から出版された。1978年に文春文庫から文庫化された。

よもや石油が入ってこなくなるとは思っていなかったという油断、文字通り石油供給が絶たれるという油断を掛けているタイトルは秀逸。

中東からの石油が断たれるという非常自体で、崩壊していく日本経済や社会がスリリングに描かれている。

 

  1. 人びとの不満と不安とを最大の〝市場〟と心得るマスコミは、好んでこれを取り上げたし、政治家は、この問題に檜舞台を見い出している。
  2. 役所では、地位の上下にかかわらず、関係者が二人以上反対することは、たいてい実現しないのだ。
  3. マイヤーは、ここで〝強いが貧乏だ、と思われるほど嫌われることはない。金持だが弱いと思われるほど危険なことはない〟という、アラブの諺を紹介し、「いまのアラブは、はっきりこの二つに分かれている」といって薄く笑った。
  4. 三千年余もの長い間世界で最も栄え進んだ地域であったこの中東が、それからわずか数百年の間に乾き切ったほこりっぽい貧しい土地に変わり果てたことを、本村は不思議に思った。「燃料がなくなったからだ」本村の疑問に、久我は短く答えた。中東が気象の変化と牧羊のために木材資源を失い燃料不足に陥った十一世紀前後には、まだ石油を掘る技術も、使う知識も人類にはなかったのだ。
  5. トイレットペーパーや洗剤は不足してはいなかった。それどころか、過剰在庫の顕著な商品であった。だが、この種の、かさばかり大きく、金額の安い品物は、どこの店でもせいぜい一週間分くらいしか置いていないから、すぐ売り切れるのは当たり前であった。主婦たちには、そんな理屈はわからない。
  6. そのそれぞれについて複雑な手続きと多数の添付書類が要求された。しかも、これを担当した政府金融機関や都道府県の職員は、このわずらわしい手続きを厳格に守った。彼らは、百の便宜よりも一つの不当を恐れるように訓練されているのだ。
  7. 日本の行政機構は、精緻さと正確さにおいては世界第一級の能力を持っていたが、非常事態に際して拙速で事を処理する訓練は全く受けていなかった。いまや、日本の行政機構全体が、砂塵の中にほうり出された精密機械のように、きしみ声を上げていたのである。
  8. 世の中の動きはまた逆転した。日本の「世論」は、明日の重病よりもいま現在の痒みに耐えかねる幼児のように、泣き叫んだ。
  9. 「その成果というのは期待通りだったかね」「それは期待の大きさによるだろうよ」
  10. 豊かな世の中が幸せか、技術が進んだらみな幸福になるのか、そうやない。二十世紀の人間が、平安時代や元禄の人間よりみな幸せやとはいえん。それぞれの時代に幸福な人と不幸な人とがいる。幸せかどうかは相対的なもんやからだす。